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スリランカのポディマハッタヤさん

『いっぽんの鉛筆のむこうに』が教えてくれるもの

スリランカのポディマハッタヤさんというと、特定の世代は思わず笑みとともに「ああ~懐かしい~」を発してしまうと思います。

私も漏れなくそのクチで、そのお名前で愉快で無邪気な子供時代の記憶を思い出すのでした。

『いっぽんの鉛筆のむこうに』は谷川俊太郎の作品で、初出は絵本だったそうです。そののち光村図書の小学4年生用の国語教科書に採用されました。

教科書に掲載されていたのが平成4年(1992年)~平成13年(2001年)の間だったようで、その間に小学4年生を過ごした日本人の多くに強烈な印象を残したおじさんでした。間違いなく日本で一番有名なスリランカ人です。

スリランカの財政破綻が報じられている昨今で、当然のようにポディマハッタヤさんを思い出し、近況を知るべく検索してみると、昨年にコロナでお亡くなりになっていたという報に少なからぬショックを受けました。

ポディマハッタヤさん(同じく同著のトニー・ゴンザレスさんも人気)の名前を連呼しながら遊んでいた子供時代に、まさかこのおじさんがこんな風に人生を終えられることになるなんて想像もできません。

コロナがなければ長寿をまっとうして穏やかな最期を迎えられていたのかもしれないと思うと、今という時代の過酷さが辛くも感じました。

『いっぽんの鉛筆のむこうに』が谷川俊太郎の作だったと、この記事を書くために調べて今更ながら知って驚きました。
改めて素晴らしい名著だと感銘を受けました。

一本の鉛筆が私たちの手元に届くまでに、どれだけの多くの人の手を経るのか、生産者たちの労を労い、感謝を忘れないようにと教えてくれる読み物でした。

そしてまた日本国内の資源だけでは生活に必要な物資を供給できず、多くを外国からの輸入に頼っているとも教えられる内容で、
鉛筆でさえ国外の資源に依存せざるを得ない状況を子供心ながらに察したものです。

しかし谷川俊太郎の目は、買い手側である日本の頭を高くすることなく、外国の生産者にも感謝を示した表現になっていて、
だからこそ登場人物たちが幼心にもこんなにも親しみ深く記憶されることになったのでしょう。

『いっぽんの鉛筆のむこうに』の絵本が初めて出版された1989年は日本のバブル景気の真っただ中にあり、
それが教科書に掲載された1992年はバブル景気の終わりの始まりにありましたが、依然日本は最強レベルの強者側の国にありました。

時代の横柄な空気に流されることなく外国の労働者の存在や、彼らが資源を提供してくれるからこそ私たちの生活が成り立っているのだと教えてくれる谷川俊太郎の謙虚な視点、またそれを教科書に採用した選者たちの気持ちは、今だからこそ察するものがあります。

先進国が途上国の生産物を買いたたき、労働力を搾取する経済構造は、戦後のグレートリセットからまた何十年と続いた結果大きなひずみとなって世界に課題を投げかけています。

コロナのパンデミックは先進国でも息絶え絶えの大打撃をもたらしましたが途上国はその比ではなく、コロナ後の新しいグレートリセットが叫ばれている。

今年に入ってからはコロナの問題だけではなく、ウクライナとロシアとの戦争によって穀物とエネルギー資源の供給パイプラインがか細くなり、穏やかならざるインフレによって日本人にも対岸の火事ではないことを痛感させられます。

もはや現代の人間の文明を維持するためには、世界中の国々が輸出入に頼らざるを得ない状況にあります。

鎖国状態で維持できる文明のレベルはとうに過ぎ去っていて、資源や生産物を交易で循環させることが必要不可欠なのです。

そのためには国同士の公平で健全な協力関係を築くことが何より大切で、新しいグレートリセットの概要にはウクライナ-ロシア戦争の教訓も必ず織り込まれることでしょう。

『いっぽんの鉛筆の向こうに』は国際的な経済活動の必要性・重要性を示唆しているだけでなく、対等な目線で他者の労に感謝するという、人としてあるべき普遍的な振る舞いを教えてくれる名著でありました。

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