Wardruna – Runaljod – Ragnarok

幽玄なルーン文字の世界へ

 

wardruna3.jpg

 

いよいよ最後、『Runaljod 3部作』の3枚目のアルバムを紹介します。

 

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Runaljod – Ragnarok(ラグナロク/終末の日)(2016年)

(※bandcampでフル視聴ができるので、是非聴いてみてください!)

 

3部作最後のアルバムタイトルは『ラグナロク』

日本でもゲーム等でその名前は聞いたことがある方も多いはず。かくいう私もファイナルファンタジー内最強の剣としてよく記憶しています。

北欧神話において「終末の日」を意味し、3部作の最後に相応しいタイトルです。

参考文献:ラグナロク

 

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◆Track 1◆  Tyr

【ルーン文字】ᛏ

【意味】テュール(軍神)
【英字】S

ホルンの音色が勇壮な曲は、北欧神話の軍神テュールを表す文字を謳っています。

歌詞の中で "Vargens matar(狼に餌をやる者)" という記述は、

獰猛な狼フェンリル(これも名前は有名ですね)に餌をやる勇気を持つのがテュールだけだったらしい。

また "Einhendt gud(隻腕の神)" とうのは、その餌をやっていたフェンリルに片腕を食いちぎられたかららしい。

とても興味深いお話なので、リンクに貼ったwikipediaの「テュール」のページを読んでください!

歌詞:https://lyricstranslate.com/en/tyr-tyr.html

参考文献:テュール

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◆Track 2◆  UruR

 

【ルーン文字】ᚢ

【意味】オーロックス(牛)・スラグ(鉱滓)・あるいは水

【英字】U

『Ragnarok』を解説するwikiでは17世紀に絶滅したオーロックスという牛だと解説されていますが、
愛蔵版のWardruna自身による英訳詩によると、スラグを謳ったものと思われます。
 
スラグとは鉱石から金属を製錬する際に出る不純物のことで、鉱滓(こうさい)や金かす(かなかす)とも呼ばれるもの。
特に鉄は需要も多いため出されるスラグの量も膨大で、この製鉄スラグを無駄なく活用する方法は古今東西で試行錯誤されてきました。
 
Wardrunaは凍った雪上でトナカイを走らせるために使われるとだけ解説していて、恐らく古代からトナカイの蹄鉄か何かにスラグが使用されていたのでしょう。
 
 
 Eg reiste i minnet
 Tilbake til isen som fødde meg
 Kjenner varmen frå pusten som tødde meg
 
 記憶の中を旅した
 私を生んだ氷に戻り
 私を溶かした息の暖かさを感じる

 

この短い詩は、鉄鉱石からスラグが生じ、トナカイの蹄鉄となって氷上を走る、
その鉄の循環を表現したものではないでしょうか。

また、ルーン文字 "ᚢ" の意味は不確定で、Ūruzからオーロックスとも考えられるし、Ūrąから水という説もあるそうです。難しいですね。

歌詞:https://lyricstranslate.com/en/urur-urur.html

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◆Track 3◆  Isa

 

【ルーン文字】ᛁ

【意味】氷

【英字】I

歌詞から「氷」の具体的な描写が読み取れないので、解釈が難しくて頭を抱えました。

詩に登場するHél-shodとは、どうやら「ヘルスコル」と呼ばれるもののようです。
北欧神話では、死者がヴァルハラに向かって歩いていけるように、「ヘルスコル」を履かせたとされているそうな。
(ちなみにヴァルハラとは主神オーディンの宮殿のこと)

どうも北欧人にとっては、氷は死出の道を連想させるのかもしれません。

このあたりの詩的な感覚の差異が面白いですね。

 

また、"Hél(ヘル)"とは英語の "Hell(地獄)"と同じ意味ですが、

同時に老衰、疾病による死者の国を支配する女神「ヘル」も表すそうです。

wikipediaの記事が面白いのでリンク先で読んでくだされ。

歌詞:https://lyricstranslate.com/en/wardruna-isa-lyrics.html

参考文献:Helskór / ヘルスコル(英文)

参考文献:ヘル

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◆Track 4◆  MannaR – Drivande

 

【ルーン文字】ᛗ

【意味】人

【英字】M

トラック5に続く布石となる曲です。

タイトルの "Drivande" とは「漂流する」という意味のようです。

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◆Track 5◆  MannaR – Liv

タイトルの "Liv" は "Life(生命)" という意味。

『巫女の予言(Völuspá)』のうち、人類創造を語る第17、第18スタンザから詩が引用されています。

これは日本語訳資料もネット上にあったので(ありがたい!)、是非リンク先をご覧ください。

歌詞:https://lyricstranslate.com/en/mannar-liv-mannar-liv.html

参考文献:巫女の予言(17)人類の創造その1

参考文献:巫女の予言(18)人類の創造その1

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◆Track 6◆  Raido

【ルーン文字】ᚱ

【意味】騎乗

【英字】R

これはオフィシャルMVがあるのでYouTubeを貼りましょう。

「騎乗」という意味のルーン文字で、歌詞の内容も平易です。

歌詞:https://lyricstranslate.com/en/raido-raido.html

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◆Track 7◆  Pertho

 

【ルーン文字】ᛈ

【意味】西洋梨の木?

【英字】P

 ルーン文字 "ᛈ" は未だはっきりとした意味はわかっていないそうですが、恐らく西洋梨の木を表したものだと考えられます。

詩の意味も断定できないものの、酒で陽気になる小人たちを謳っていて、ペリー酒をつくる梨の木を表現したのでしょうか?

歌詞:https://lyricstranslate.com/en/pertho-pertho.html

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◆Track 8◆  Odal

【ルーン文字】ᛟ

【意味】世襲財産

【英字】O

子供たちの声も入る賑やかな歌です。
老人から子供たち、新しい世代へ、受け継がれる家督や伝統を謳っています。

歌詞:https://lyricstranslate.com/en/odal-odal.html

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◆Track 9◆  Wunjo

【ルーン文字】ᚹ

【意味】喜び

【英字】P

トラック8に引き続き、子供たちの声が入って賑やかな曲です。

灰色の世界から色が芽吹くような詩の表現、これがとてもいい。

 

 灰が降り積もり
 大地は灰色で不毛
 墓場から新芽が芽吹く
 勝ち誇ろうぞ、はね起きる最初のその日を
 
 私は大きくないかもしれないが
 しかし私はこの大地で時を刻む
 それを使い 手を伸ばそう
 青い空に向かって
 涙がとめどもなく流れる
 喜びと悲しみから
 この地に起こったことすべてに
 この地に与えたことすべてに
 
 花を咲かせる新芽のために
 鼓動する心臓のために
 涙がとめどもなく流れる
 喜びと悲しみから
 この地に与えたことすべてに
 この地に起こったことすべてに
 涙がとめどもなく流れる
 灰色の雲から
 
 土より出でて
 太陽へとのぼる
 まことにその想いは
 喜びよ!
 
 小さな足は
 大地を駆け巡る
 止まることなく
 環は踊り続ける
 喜びよ!

 

歌詞:https://lyricstranslate.com/en/wunjo-wunjo.html

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◆Track 10◆  Runaljod

 

『Runaljod 3部作』の最後として、ルーン文字を一文字ずつその意味を解説する詩になっています。

歌詞:https://lyricstranslate.com/en/wardruna-runaljod-lyrics.html

 

ところがここで謎が。

『Runaljod 3部作』は古フサルク(2世紀~8世紀頃)の24文字を謳ったはずなのに、この曲で解説されているのは新フサルク(8世紀~12世紀頃)の16文字なのです。

意味も変わっている文字もあります。

例えば "ᚲ(松明)" が "ᚴ(潰瘍)" に変わっていたりする。

これは歴史の時間の変遷を表現したのでしょうか、面白い演出です。

また、詩の内容も解説というより謎かけのようで、さらっと触っただけではまだよく分からない。(後日じっくり考えたい)

 

また詩の一部には、『ハヴァマール』第142スタンザと139スタンザからの引用もあります。

 

Rúnar munt þú finna ok ráðna stafi,
mjök stóra stafi, mjök stinna stafi,
er fáði fimbulþulr ok
gerðu ginnregin
ok reist hroftr rögna
 
(Hávamál 142)
 
...nam ek upp rúnar
æpandi nam...

(Hávamál 139)

 

汝、ルーンを見つけよ、運命のしるしを
歌い手の王が彩ったもの
そして、強大な神々が作ったものである
強大なしるし、まったき強大なしるし、
神々の支配者が書いたものだ
 
…私はルーンを拾い上げた、
悲鳴を上げながら拾い上げた…

 

※訳詞は『ハヴァマール』の英訳から私がつくりました。間違っていたらすみません;;

 

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というわけで、暇ができたら『Runaljod 3部作』の解説を書きたい、と以前から考えていたものを急ピッチで実行してみました。

内容に齟齬があったら大変申し訳ありません。

追々、また勉強して追記や修正もしていけたらいいなと考えています。

ルーン文字の世界、古代北欧の神秘、とても興味深いですね。

音楽への興味から断片的にかいつまんで調べているだけなので、もっと体系的に勉強したいなぁ。