
前回、前々回の記事でStable Diffusionを無料かつ無制限で利用する方法をご紹介しました。
今度は実践編として、AI画像出力サービスで生成できる画像をいかに漫画に応用できるか考えてみましょう。
AI画像の神髄は「素材」を作れることにある
MidjourneyやStable Diffusion(Dream Studio)が公開されてにわかに話題沸騰となり、「いかにして一枚の絵の完成度を上げられるか」に注力されてドエライ作品がたくさん生成されています。
「AIは絵描きの仕事を奪うのではないか」という懸念も同時に生まれて穏やかではない気持ちでいる人も多いでしょうが、AI画像出力サービスの神髄は「素材」を作れることにあると私は考えています。
漫画やイラストの部品になる素材、それもちょうどジャストに使える、かゆいところに手の届く素材を短時間で出力できるようになれば、AIは絵描きを大きく助けてくれる頼れる相棒になってくれるはず。
現状AIで出力された画像の権利は作成者が持つとされており、Stable Diffusionでは商用利用にも制限がありません。(2022年9月現在)
商用利用も問題なしのフリー素材を出力できるツールだと考えると、AIの技術の進歩に俄然興味と期待が湧いてきます。
AI画像をどう漫画に応用できる?
AI画像出力サービスを「素材」を出力するツールだと捉えた場合、漫画に応用できるのはこういう使い道でしょうか。
- 背景素材を作る
- テクスチャー素材を作る
- どうやって描いたらいいかも分からない絵の参考にする
それぞれの使い道を詳しく考えてみましょう。
1.背景素材を作る

背景素材を作る、これは皆さんもイメージしやすいと思います。
私も自分の漫画で頻出している研究所っぽい素材をいくつか実験で出力してみました。よく見ると怪しいところも多々ありますが(笑)、手前に人物がいるコマの背景としてごまかして使用する分には十分なクオリティではないでしょうか。
実際の漫画のコマにも採用してみました。

“Secret military laboratory in future” というような適当なプロンプトでもこんな画像が得られます。
AIは基本的にあえて人物を入れるプロンプトを書かない限り、無人の風景を出力してくるのでかえって背景素材に好都合です。
漫画の背景として使うにはレタッチ必須


出力された画像をそのまま漫画に採用しては人物と浮いてチグハグになりがちなのでレタッチが必要です。
これは “円形に変形する都市” といういかにもSFっぽい風景をAIに描かせてレタッチしてみました。
皆さんもご自分の画風に合わせてレタッチする方法を探ってみてください。
2.テクスチャー素材を作る

「錆びた金属の表面」「木目」「ガサガサしたビニールの表面」「乾いた土」などのプロンプトで出力すると、テクスチャー素材を作ることが可能です。
「こういうテクスチャーが欲しい」をダイレクトに実現可能にするツールになり得ます。

そして早速AIが生成したテクスチャーを私の漫画の一コマに使ってみました。
うーん、手持ちのブラシ素材で既に似たテクスチャーのものはたくさんあるので、正直に言うとそちらの方が早い(笑)
けれど、ブラシを作る目的でAIを活用するのは大いにアリだと思います。
従来のテクスチャー素材は現物を写真に収めてそこから素材化されているものが多かったりしますが、(雲のブラシや波のブラシ、床にぶちまけた小麦、という泣けるブラシまである)そういった現物を用意して写真を撮るという大変な労力がAIで省略できることを考えるとものすごく有用です。
パターン素材も作れる

また、テクスチャーだけでなくパターン素材を作ることもできます。
プロンプトに「Seamless Pattern」と加えると自動的にシームレスな連続パターンにしてくれるので(これが地味にすごい)夢中になって試しました。
しかしながら、こういったテクスチャーやパターン素材は結局人が作った素材の方が質が良いし使いやすい(笑)
素材の配布・販売サイトには無料・有料で実に豊富で質の高い素材が用意されているので、そちらを利用した方が良いでしょう。(いやでも迷彩柄は完璧だと思う。これをPhotoshop等でパターン登録すればより使いやすい)
人が作った素材の方が質が良いというのは、とりわけ伝統的な文様のスタイルを狙って出力しようとする場合においてです。
伝統的な文様というものは、その図柄に歴史的な背景や意味があるものなのですが、AIではそれらをすっ飛ばして “なんかそれっぽいもの” が出力されたに過ぎません。
古代ギリシア風、古代ローマ風、中世ゲルマン風、ルネサンス風、ロココ風… こういった文様は絵画と違って目立ちにくい存在なのでぞんざいに扱われがちなのですが(文様の時代考証のない使われ方がされがち)、それぞれの文様の様式やモチーフにも民族の歴史や込められた願いがあるものです。
そうした背景をすっ飛ばして “なんかそれっぽいもの” をAIが出力するのは、「ああ文脈が失われるとはこういうことなんだろうな…」とちょっと後ろ髪を引かれる思いもあります。
もちろん現代のパターンデザインはもっと自由であっていい。伝統に固執する必要はありません。AIが出力したパターン原案としてリファインするのは良い使い方だと思います。
素材サイトで用意されていないような、特殊な素材を作る試みはアリ
テクスチャーやパターン素材は、無料でも実に多くの質の高い素材が配布されているので、現状ではAIよりもそちらに頼る方が良いように思います。
しかし「素材サイトで用意されていないような、特殊な素材」を作る試みはアリだしそれがAIの真骨頂のような気がする。
試しに西洋風のオリジナル紋章を作ってみました。

うーん、なんかおかしいけどなんとか使えるのでは!?(笑)
こんな風に、「とても既存の配布素材にはない素材」を試してみる価値は大いにあります。
3.どうやって描いたらいいかも分からない絵の参考にする
漫画を描いていると、「どうやって描いたらいいかも分からない絵」を描かねばならない状況に度々悩まされます。
車がクラッシュするシーン、ビルが爆発するシーン、大勢のモブが歓声を上げているシーン… スペクタクルな漫画になればなるほど作者を苦しめます。
AIは、そんな「どうやって描いたらいいかも分からない絵」の参考になってくれるものと私は大いに期待しています。
試しになんかすごいスペクタクルシーンを作ってみました。

(大友克洋の『童夢』をイメージしましたが、AIは底に穴を開けました)

こういう大スペクタクルシーンこそ、本気でどうやって描けばいいのか分からず泣けますが、なんとなく方向性が見える気がする。

よくわかりませんが、なんかいい絵なので気に入っています。

しかしこういう戦場の絵はゲームのおかげで教師データが多いので、試行錯誤を繰り返せばかなりいい結果が出そうです。
こんな具合に、皆さんも描きたいけど「どうやって描いたらいいかも分からない絵」を言語化してAIに描かせてみてください。
うまくAIを使いこなせれば、漫画制作の労を減らして楽ができるはず!
私はそれを目指してこの先もエッホエッホ研究していきます。その報告をこのブログでも時々出せたらいいな~と考えているので、皆さんもよろしくお付き合いください。
ではまた。