Alba

worldsblysse.jpg

 

管理人が十数年かけて描いている漫画『HATSHEPST』

http://www.cristinmilites.com/comic/index.html

 

この物語の重要人物になるストラウスという軍人がいます。

彼のフルネームは "イーゴス・アルバ・ストラウス"

 

イーゴスとは一定以上の年齢の滋賀県民には懐かしい、今はなき観覧車の名前、
そしてミドルネーム "アルバ" は私の大好きなイギリスの古楽グループ Mediæval Bæbes の曲から取りました。


「アルバ(Alba)」はオック語で "夜明け" という意味。

Mediæval Bæbes の1998年の2ndアルバム『Worldes Blysse』に収録されている、この短く美しい曲が大好きなのです。

歌詞は12世紀後半に南仏にいたギラウト・デ・ボルネイユというトルバドゥール(宮廷詩人)によります。


"Alba" は古オック語詩のジャンルのひとつで、不義の密会をしていた男女が夜明けと共に別れねばならない切情を謳ったものです。

要は騎士と高貴な奥方の不倫で、詩はその密通の現場の見張り番の口から語られる体をしています。
「おい親友、もうじき夜が明けるぞ」みたいな忠告を繰り返す感じです。


この見張り番のことをオック語では "guaita" と呼びます。

"guaita"の他にこのジャンルの定番のキャラとして、奥方の夫や騎士に横恋慕する嫉妬深い恋敵が存在します。

この嫉妬深い恋敵を一語で表す言葉がオック語にはあるそうな。"lauzengiers” というそうな。

参考wiki:『Alba』

https://en.wikipedia.org/wiki/Alba_(poetry)

参考wiki:『アルバ』

https://ja.wikipedia.org/wiki/アルバ_(詩)

ギラウト・デ・ボルネイユのAlba詩には旋律が残されているので、 音楽の世界では彼の詩=Alba と呼ばれることが多いですが、正確にはAlbaばジャンル名なんだそうです。調べるまで知らなかった。

ギラウト・デ・ボルネイユの詩はその冒頭から "Reis glorios, verais lums e clartatz" とも呼ばれます。

参考wiki:『ギラウト・デ・ボルネーユ』

https://ja.wikipedia.org/wiki/ギラウト・デ・ボルネーユ

 

ちなみに古オック語詩の「アルバ」が伝播して、もう少し後の時代になると、夜明け前に別れなければいけない恋人たちの押し問答が小劇風の詩や歌に変わってゆきます。

それをフランスでは「オーバード」、ドイツでは「ターゲリート」と呼ぶそうな。

参考wiki:『オーバード』

https://ja.wikipedia.org/wiki/オーバード

 

さてAlbaは不倫の詩と知ったところで、

「はて、Mediæval Bæbesの曲を高校生の頃に聴いたときは、十字軍に参加している騎士の恋人を想い無事を祈る乙女の歌だったと記憶したが?」 と疑問が浮かぶ。

当時の歌詞集を久々に引っ張り出して確認すると、やっぱりそう書いてあるがな!

 mb1.jpg

mb2.jpg

 

もちろん古典を研究している彼女たちがそれを知らないわけがないので、 あえて少女チックな世界観を演出したのかなと思いました。

しかし不義の恋という "Alba" に隠された真実は、ストラウスの出生の事情やら今後のストーリーと絡んでいい感じだと気に入りました。

彼の名前にかこつけた小話でした。